告知、「あなたの命は残り六か月以内です。もう、医者としてやるべき事はありません。」

 どんな名医が治療しても回復不可能な末期がん患者が入院する病院で、患者さんの身体的、精神的な苦痛をやわらげ、心静かに死を迎えることができる環境をつくるのがホスピスです。

 私は、会社を定年退職後、このホスピス病棟でボランティアをしています。ここに入院された患者さんの平均寿命は四十日です。多くの患者さんと出会い、そして別れていきます。短い時間であっても痛みを共有し、人間としての生き方を語り、その望みを聞いてあげる。こんな関わり方を通して、生きていることのよろこび、命の大切さを教えてもらいます。

 患者さんは言われます。朝ベットの上で目が覚めた時、「私は今日も生きている。」と思うそうです。このことが本当に嬉しいそうです。私たちはどうでしょう。今、生きていることのよろこびを感じ、感謝しているでしょうか。不平不満、恨みや妬みはありませんか。この人達には、このような邪心は一切ありません。残り少ない人生を周囲の人達に「ありがとう」、「ありがとう」と感謝しながら、今日一日を一生懸命に生きておられます。

 さて、私達は、あまりにも豊かで裕福な時代に生きているため、人の苦しみ、命の大切さを忘れてはいないでしょうか。他人の痛み、苦しみがわかる人間になっていただきたいものです。

 そのためには、まず、自分の人生に降りかかる困難さ、精神的痛みに耐えられるだけの忍耐力を養うことです。自分が痛みを体験してこそ、人の痛みが理解できるのです。これからの人生、苦しさから逃げることなく、立ち向かう勇気を忘れないでください。

 山を登る時は苦しい、しかし、頂上に立った時の満足感、達成感はすばらしいものです。常に自分を磨き、人の痛みを自分の痛みとして共有できる、やさしい人間になってください。それがあなたの幸せを約束します。