私が生涯の師と仰ぐ恩師から、40数年前に贈られた直筆の「仕事への自戒」を座右の銘として、常に自らを戒めながら生きてきた。今では、この自戒を我が家の「家訓」として、子々孫々に伝えたいと思っている。

 この恩師は、私が小学6年生の時から2年間担任いただいた後、外務省嘱託として、北京へ。戦後復職されて、晩年はわが母校の教頭を務められた。闊達な性格で、「背伸びして月の柱を折るべし」は先生の信条。いつも厳しいスパルタ教育を受けた。90才を越えた今でも親交があり、柱会のメンバーが時々、ご機嫌伺いに訪れている。

 「仕事への自戒」は、『創る』『放すな』『納まるな』の三つの言葉である。

 『創る』とは、仕事は自ら創るもの、与えられるべきものではない。つまり、仕事は上司や他人から、あれをせよ、これをせよと指示されてするものではなく、今何が必要か、どれが急ぐのか、やるべき仕事を自ら求め創造し、判断して行動する。仕事への取り組む姿勢である。

 『放すな』は、取り組んだら放すな、それを成し遂げるところに成長がある。つまり、それが初めての仕事であれ、研究・開発であれ、それに取り組んだら途中で投げ出さない。行き詰まったら元に戻ってやり方を変え、発想を変え、足したり減じたり、他と入れ替えたり、あらゆる角度から検討し、そうすることで光明を見出し解決の糸口を見つけ出す。スッポンは食い付いたら死んでも放さない。この例えから、このことを「スッポントライ」ともいう。

 『納まるな』は、早く納まるな。先に憂い、後に楽しむ。つまり、「先憂後楽」のことで、心配や悩み事は、先に解決し、問題を後に残さない。勉強にしろ仕事にしろ何れはやらなければならないのであれば、面倒がらずに先に片づけよ。という教訓である。

 そんなことはわかっていても、それをなかなか実行できないのが世の常。この言葉をいつも意識して行動するのと、そうでないのとでは、長い人生の中で大きな開きが出てくる。